はじめに〜成果を急ぐ時代にこそ「守」の大切さを考える〜
SNSを開けば、成功を収めた人々の華やかな姿が次々と目に飛び込んできます。短期間で成果を出しているように見える彼らを見て、「自分も早く結果を出さなければ」「こんな地味なことを続けていては遅れてしまうのではないか」と焦る気持ちになることはありませんか?
しかし、そうした焦りこそが、今の時代における落とし穴です。目に見える成果を得る前に、必ず基礎作りの「守」の時期を経なければならないのです。手っ取り早く成功をつかもうとしてしまうと、あとからその土台の弱さが露呈し、結果的に長く続く成功から遠ざかってしまうことになります。
では、どうして「守」の時期がこれほど重要なのでしょうか? その理由を「守破離(しゅはり)」という概念を通じて考えていきたいと思います。
守破離とは何か?
「守破離」という言葉は、もともと茶道や武道の修行における成長のステップを表す言葉です。仕事やキャリア形成にも非常に当てはまり、プロフェッショナルへと成長する過程を3つの段階で示しています。
- 守(しゅ):基本を忠実に学び、土台を作る時期
- 破(は):基本を応用し、独自性を加える時期
- 離(り):基本と応用を超え、自分のスタイルを確立する時期
特に最初の「守」の時期は、基礎固めを行う重要な段階です。しかし、多くの人はこの時期を地味で退屈に感じ、途中で挫折してしまいがちです。ここをどう乗り越えるかが、その後の成功を左右します。
守の時期〜つらくても乗り越えるべき基礎作りの段階〜
「守」の時期はスポーツで言えば基礎練習の段階
たとえば野球で言えば、球拾いやランニング、筋トレといった地道な基礎作業がこれにあたります。こうした練習は決して派手ではなく、楽しいと感じることも少ないでしょう。しかし、この基礎なくして試合でヒットを打ったり、華麗な守備を見せたりすることはできません。
仕事もこれと同じです。最初は雑務や準備作業、細かな確認作業ばかりかもしれません。憧れの先輩のようにスマートに仕事をこなす自分の姿はまだ遠く、劣等感を感じることもあるでしょう。しかし、実はこの時期こそが後々の飛躍を支える大切な期間なのです。
経験談〜小児外科医としての守破離〜
私は小児外科医として働いていますが、この世界でも「守」の期間は非常に長いものです。最初の5年から10年は、ほとんどが下積みの連続でした。
正直、私自身も焦りや不安を抱えながらのスタートでした。
最初の数年間は、基礎的なことしかできず、「本当に自分は一人前になれるのだろうか?」「こんな状態で大きな手術ができるようになるなんて到底思えない」と悩むことばかりでした。将来どうなるか全く見えない不安の中で、がむしゃらに日々を過ごしていました。
ひたすら先輩を見て、学び、真似る日々。
その中で私が決めたのは、とにかく先輩の考え方や行動を徹底的に観察し、学び、真似ることでした。先輩の一挙手一投足を見逃さず、言葉遣いや手の動き、準備の段取りまで、自分のものにしようと必死でした。
最初は自分の考えを入れることは一切せず、「これは正しいか間違っているか」といった判断をする余裕もありませんでした。ひたすらひたむきにインプットすることに集中し、自分の考えや感情よりも「まずは徹底的に吸収する」ことを最優先にしていました。
先輩の仕事を手伝い、後をついて回る中で、何度も同じ作業を繰り返しながら少しずつ自分の中に基礎が積み上がっていく感覚がありました。
メンタルと責任感を鍛える基礎練習。
徹底的な報告・連絡・相談の訓練や、思い通りにいかない中でも前に進み続ける経験を通して、私は少しずつ強くなっていきました。このようにしてメンタルが根本的に鍛えられたことは、その後のキャリアで大きな意味を持ちました。
突発的なトラブルやハプニングに出会った時にも、諦めずに突き進むための責任感やマインドを身につけることができたのです。
そして気づけば、、、
難しい手術や治療を、どのような状況であっても責任を持って成し遂げる力が、自分の中に自然と身についていました。
振り返ってみると、長い「守(しゅ)」の時期をしっかりと経験できたことこそが、今の自分を支える一番の土台になっています。
その頃は、技術も未熟で、心もまだ拙く、不安や焦りでいっぱいでした。がむしゃらで混沌とした修行の時期をしっかりと経験できたことが、今では何より大事だったと痛感します。
まとめ〜焦らず、一歩一歩進んでいこう〜
もし今、目の前の仕事に辛さを感じたり、先が見えないと不安になったりしている人がいれば、どうか思い出してください。
「守」の時期を乗り越えた先に、あなたの望む姿が待っています。
焦らずに、今日できることを一つずつ積み上げていきましょう。プロフェッショナルとしての未来は、その努力の先に必ず開けるはずです。